このプログラムは国立大学法人金沢大学とパートナー自治体(石川県、輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)によって実施されています

「保全」って何だろう?

(2018年7月公開)

 

当たり前のように使う用語なのに、ふとしたきっかけでその意味を考えさせられることがある。先日、まさにそんな経験をした。ここでの「当たり前のように使う用語」は「保全」で、「きっかけ」はカナダで開催された国際会議だった。

 

* * * * *

 

自然環境の保全。「保全」という用語を僕が使うのは専らこの文脈である。正確に言うと、海外留学中の約20年前にまず英語のconservationという用語を使うようになった。共に(con)守る(serv)。自然と人間の共生。この考え方に僕は心地よさを覚え、その和訳の「保全」も何気なく使ってきたのだった。里山里海の考え方とも近い。

 

似て非なる用語にpreservationがある。前もって(pre)守る(serv)、すなわち「元の状態のまま保つ」という意味である(ちなみに、食品などに用いられる保存料はpreservativeと呼ばれる)。手を付けずに保存する考え方なので、使い続けながら守るconservationとは対照的である。

 

* * * * *

 

カナダの国際会議の題名は「地域社会、保全、生業(Communities, Conservation and Livelihoods)」で、5月下旬に東海岸のハリファクスという街で開催された。合計400名以上実務者・研究者が集い、僕もその一人として参加した。

 

会議では、自然と共生する人々の暮らしに関して、カナダや世界各地から多くの事例が紹介された。そして、そのひとつがメキシコの先住民に関する研究報告で、conservationという外来の用語がある地域の先住民にどう解釈されているかを調べたものであった。結果は、彼ら自身の言葉で「持つ(to have)」や「気を付ける、手入れをする(to care)」という意味で理解され用いられているということであった。

 

この発見は一見単純だが、実は深い。気を付けながら手入れをすること。まさに里山里海の考え方と一致する。

 

そこで再び日本語の「保全」である。「保全」という用語に「気を付けながら手入れをする」の意味が含まれているだろうか。そもそも、「conservation=保全」が果たしてよい対訳なのだろうか。Preservationの意味を帯びて「保全」が用いられる場面がないだろうか。手を付けずに保存するという意味で「保全」を使うと、自然環境に重きを置く人には心地よさを与え、人の暮らしに重きを置く人には違和感を与える。「保全」という用語の曖昧さは、論点をずらしてしまう危うさを持っている。

 

しかし、この曖昧さには、価値観の微妙な違いをうまく包み込んで協働を促す効果もあるかもしれない。このようによい意味での呉越同舟こそ、里山里海での現場実践には大切なのかもしれない…などと色々なことを考えながらの帰国となった。

 

* * * * *

 

能登の住民は「保全」という用語をどう解釈しているだろうか。使うとしたら、どのような場面で、どのような意味を込めて使っているのだろうか。疑問が湧くばかりで、答えは見つかっていない。ときにはこのように素朴で硬い話題について、住民のみなさんと語り合ってみたいものである。

 

北村健二

(本稿は、『広報すず』2018年8月号「金沢大学能登学舎の窓から」の内容を一部改変したものです。)