このプログラムは国立大学法人金沢大学と出資自治体(珠洲市)、連携自治体(石川県、輪島市、穴水町、能登町)によって実施されています

世界農業遺産とSDGs

「能登の里山里海」が世界農業遺産に認定され今年ではや8年目です。最近はその存在がやや薄くなっているのではと心配することもあります。一方、最近ではSDGs(国連で定めた持続可能な開発目標)というキーワードを新聞紙上で見ない日はないぐらい、社会的に認知されつつあります。ですが、能登で何をすればSDGsの達成につながるのかは、まだ手探り状態かもしれません。

実は世界農業遺産に関する取り組みに、能登でのSDGs達成のヒントの一つがあるのではと思います。

 

世界農業遺産の現在

能登が登録された2011年当時、世界農業遺産は世界で11カ国12地域のみでした。2018年には韓国の高麗人参栽培、イタリアのブドウ栽培、イランのサフラン栽培、スペインのオリーブ栽培などの12地域が新たに登録されました。現在は21カ国57地域と各大陸に認定地が広がり、世界的に関心が高まっています。国内では能登を含めて登録数が11となりました。
 

世界農業遺産とSDGsとのつながり

ところで昨年8月、世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」のある和歌山県で開催された「東アジア農業遺産学会」に能登学舎の研究者たち6名も参加し、世界に向けて能登の世界農業遺産に関する研究発表をしてきました(写真)。

基調講演で学会名誉会長の武内和彦氏が強調したのは、世界農業遺産の取り組みがSDGs達成に大きく貢献する可能性についてでした。能登で世界農業遺産の理念にそって取り組みを活発化させることが、地域の持続可能性につながるだけでなく、世界のSDGsの達成にもつながりうるのです。

 

「おすそわけ」がSDGs?

それでは能登ならではのSDGs の取り組みとは何でしょうか?具体例をあげますと、一つは「おすそわけ」です。これは能登ではご近所づきあいの美徳として捉えられますが、自分で栽培した野菜(へんざいもん)を分け合うことで、食品ロスを減らすことにもつながります(SDGsの目標12「つくる責任 使う責任」)。

このような小規模農業は全世界の食料供給の約8割を占めていると言われ、飢餓の解決のために世界的に重要だと指摘されています(目標2「飢餓をゼロに」)。農地の手入れは里山の生物多様性の保全にもつながっているでしょう(目標15「陸の豊かさも守ろう」)。ですが、能登ではイノシシの獣害が増加し、小規模農業存続の大きな脅威になっています。

このように一つの地域課題は様々なSDGsとつながりあっていることがわかっていただけるかと思います。ですから、これまでのように個別の課題に別々に取り組むのではなく、異なる分野の人々が連携してともに課題解決に当たることがSDGs達成の近道であると言えます。

 

世界の人と分かち合える価値観

世界では今後、新興国を中心に人口が増加し、2050年までには98億人に達すると予測されています。一方、人口減少社会の日本では2050年には現在より2,400万人近く人口が減少するそうです。同じ農業でも途上国・新興国と先進国ではその社会的役割が大きく異なりますが、どちらの国も地域の特性に応じて土地や水などの資源を有効利用することができる、伝統的農業を含めた「多様な農業」の共存を図っていくことがSDGsの達成には必要です。世界農業遺産である能登はまさに世界から注目されています。

能登ならではのSDGs達成に向けて、まずは自分たちの地域がどのように成り立ち、どのような人々の思いで受け継がれているのかを知り、いま一度深堀して、その価値を内外に発信し続けることが大切ではないでしょうか。能登学舎のスタッフはそのようなお手伝いができると考えています。

 

伊藤 浩二【いとう こうじ】
金沢大学地域連携推進センター特任准教授。能登学舎(三崎町小泊)に赴任して10年、マイスタープログラムの運営や受講生指導のほか、希少野生植物の保全や植物資源利用の研究をしています。

 

(広報すず2019年2月号「金沢大学能登学舎の窓から 」に掲載された文章を一部変更したものです)